思うこと, 心理学

洗脳とは何か?その方法と危険性

2018年7月、オウム真理教のトップの死刑執行が行われ、世間を賑わせています。

一連のメディアによる報道は非常に危険に思います(理由は後ほど。)

この事件は一人のカリスマが信者をあつめ、危険な思想へと「洗脳」したことが事件の根っこになっていると言われています。

防御犯罪史に残る事件の節目に、警戒を促す意味も込めて「洗脳とは何か」について書きます。

「洗脳」という技術は存在する

世間一般の方々はこの「洗脳」という技術を甘くみているどころか、実際のところ、存在すら信じていないように思います。私はパフォーマンスとして「催眠術」を披露することがありますが、いまだに世間の反応は「本当なの?」といった調子です。

 

「人の心と身体を操ることなどできない」と思う人が大半のようです。

しかし、これは非常に危険なことだと思います。

 

催眠や洗脳という技術はたしかに存在します。

なにも特別な人が洗脳されたわけではなく、オウム事件では、至って普通の生活をおくる方も洗脳により、思考や行動を操作されていたと言われています。

信者の中には理系の高学歴エリートも属していました。彼らは「見たものしか信じない」いわゆる現物主義です。

彼らのような知的な思考ができる人でも、思考を操作されてしまう。いえ、むしろ容易かもしれません。「信じないことを信じている」のですから。根底を壊されたら、簡単にひっくり返ります。

要は他人事ではないということです。

 

洗脳とは何か。

洗脳とは「無意識レベルで何らかの刺激を与え、その人の思考、行動、感情をコントロールする」技術です。

朝鮮戦争時の軍が用いていた思想統制法をジャーナリストのエドワード・ハンター氏が「Brain washing」と紹介し、「洗脳」という言葉はその和訳です。

 

普通に考えて「ある人に特定の思想や行動を刷り込む」のは簡単なことではありません。

例えば「人を殺すのはいいことだ」と刷り込むとして「いや、それは違う」となります。

 

わざわざ洗脳する必要があるということは、意志に反することが多い。つまり、抵抗が発生するのです。

その抵抗を抑えて、特定の思考を刷り込む。それを可能にするのが洗脳の一連の技術というわけです。

 

ちなみに催眠術はより狭義で、瞬間的なものですが、手法は似通っています。少なくても、洗脳に精通する者は、催眠の知識は持っているでしょう。

 

具体的な手法について

洗脳のメカニズムは簡単に言うと、①通常の意識状態を保てなくした上で、②意図する思考や行動を刷り込むといったものです。

 

①は難しい言葉を使うと、「変性意識状態をつくる」といいます。トランス状態ともいいます。人の意識には通常の意識=理性と無意識が存在します。

変性意識状態とは、簡単にいうと「無意識がオープンになっている状態」をさします。感覚はさまざまです。

 

  • 電車の中で居眠りする寸前の夢心地の感覚
  • 映画館で周りの声が聞こえないほど没頭している感覚
  • またはランナーズハイのようにハイになっている状態

 

浅い・深いはありますが、この「いつもと違う感覚」が変性意識状態です。

人はこの状態にあるとき、外部からの刺激に無防備になっています。

 

この変性意識状態のときに、意図する特定の思考や行動を言葉や映像など、さまざまな手法で刷り込むのです。

よく言われる幻聴や幻覚などの神秘体験は、この変性意識位状態にあるときに発生します。トランスの深さによっては、かなりのリアリティをもって体験することもあります。

神秘体験は術者の意図を反映することも可能で、特定の思想を信じさせるのに貢献します。

 

洗脳のステップ

ではどのようにして、この変性意識状態をつくるのでしょうか。大きくわけて二つの方法があります。

 

1つは強制的な手法です。

具体的には長時間にわたり外部の刺激がない場所に監禁したり、暴力を用いたり、薬物を用いたり、肉体的・精神的に極限まで追い込み、通常の意識状態を保てなくする。

 

もう一つは、間接的な手法です。

例えば、オウムが用いてたのは、ヨガや瞑想です。ヨガや瞑想はそもそも変性意識状態をつくるための一連の呼吸法や運動です。その中に、教義や思想をちりばめることで抵抗なく、刷り込むことができます。

 

他にはロールプレイやワーク、実験として、カモフラージュすることもあります。自己啓発セミナーなどで用いられたりします。たとえは名前を書いた紙を破らせたり、囚人と看守を演じさせたり、特定の映像を繰り返し見せたりします。

 

これ以上の具体的な手法は伏せますが、興味本位で運営主体が見えない瞑想やヨガサークル、自己啓発セミナーに近づくのは避けたほうが懸命です。

類似したものにマインドコントロールやプロパカンダ等がありますが、これらはより大衆に広く行われる点で解釈はことなりますが、目的や手法は似通っています。

 

報道が危険な理由

なぜ、オウム事件を大々的に報道するのが好ましくないのかというと、術者は洗脳の過程において、特定の条件付けをしていることがあるからです。

 

「Aという言葉を聞いたら、Bという行動をとる」といった形でプログラミングするのです。例えば、「教祖の声を聞いたら、教義がフラッシュバックする」といったように。

これを専門用語でアンカリングと言います。「刷り込み」を繰り返していることになるので、より強固な洗脳になるわけです。

 

洗脳済みの信者が脱退し、普通に日常生活をおくっていても、ある時突然、何かをきっかけに信仰心が戻ることは十分に考えられます。アンカリングは非常に巧妙に散りばめられているからです。

なので、私としましては、安易に教祖の肉声や映像を出して報道するにはよろしくないと思います。だからといって、どうしようもないのですけど。

 

いかがでしたでしょうか。

もちろん、私は専門家ではありませんし、狭義では誤っていることもあるかもしれません。実際はより巧妙だろうと想像しています。あくまで「洗脳という技術は存在する」ことを理解していただくために書きました。

洗脳やマインドコントロールの手法は多岐にわたり、カルト組織だけではなく、日常のあらゆるところに潜んでいます。

「まさか自分が」と考えずに、集団を指揮する者の言動に疑いをもつこと、そして、興味本位で怪しげなモノには近づかないことが大切です。頭に片隅にでも置いておくと防御体制をとることができます。

痛ましい事件が2度と起こらないことを祈って。

 

洗脳分野についての書籍をご紹介しておきます。

ご興味のある方は是非。

 

タイトルはヤバめだけど、宗教についての知識も学べるライトな書籍。クスッと笑えます。

ガチめの書籍。言わずと知れた洗脳の専門家による書籍。