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CIAの極秘マニュアル|マジシャンが教えた「騙しの技術」の数々

私たちマジシャンが秘密を隠し、観客を欺くために用いる「騙しの技術」は時に、マジック以外のシーンで応用されることがあります。

詐欺やイカサマなどはわかりやすい例ですが、私が知る中でもっともインパクトが強いのは、マジシャンの技術がCIAの極秘作戦「MKウルトラ」に利用されていたことでしょう。

「どうすれば敵地で自らの素性を悟られずに敵を欺き、暗殺や諜報などの機密作戦を無事に遂行することができるのか」という重要な課題において、CIAはマジシャンの騙しの技術に目をつけ、あるマジシャンにコンサルタントになるよう命じたのです。

これは映画や小説の話ではなく、事実です。ちなみに大ヒット映画「ボーンアイデンティティ」を始めとするボーンシリーズはこの「MKウルトラ」がモデルになっています。(ボーンシリーズめっちゃ好きなんです。)

こちらの本には、あるマジシャンがCIAに明かし、諜報活動に活用されていたであろう技術について詳細に解説されています。マジシャンとしても興味深く読めたので、内容をご紹介します。

スパイ志望の方は必見です。

MKウルトラとは

1953年、米国は冷静状態が続く緊迫した情勢の中で、国家の安全保障に必要な具体的な対抗策がまとめられたある極秘プログラムが開発されます。そのコードネームが「MKウルトラ」です。

「MK」とはCIAの科学技術部が主導であること、「ウルトラ」は最重要機密を意味するそうです。全部で149個のプロジェクトがあり、その中でマジックの騙しの技術をミッションに応用する計画があったのです。この計画、最近まで極秘資料として公開されてなかったんだって!胸熱です。

CIAはクロースアップマジック(観客の目の前で披露するマジック)を得意とするマジシャン「ジョン・マルホランド」にコンサルタントを依頼し、二冊のマニュアル「作戦に応用できるだましのテクニック(Some Operational Applications of the Art of Deception)」と「合図と目印(Recognition Signals)」を作成しました。

前者はマジシャンの技法を機密作戦に応用する方法や、心理学を応用した騙しのテクニックについて詳細に解説されており、後者はマジシャンやメンタリストが情報伝達に用いる技術について解説されています。

何年か前に原著にも目を通したのですが、思っている以上に内容が「ガチ」でした。いくつかの例をご紹介します。

 

錠剤の扱い方

マジシャンの武器のひとつに観客の意識を意図した方向に誘導するというミスディレクションという技術があります。これを端的に応用し、相手の飲み物に密かに錠剤を混入させるという方法が紹介されています。理にかなっています。

 

モノや人の隠し方

敵地に密かに潜入する方法、証拠を隠滅する方法などが解説されています。

 

秘密のサインの伝え方

味方に緊急事態であることを密かに伝える必要があるときや、作戦開始を伝えなければいけないときに、秘密のサインを用います。靴紐を使った情報伝達の方法などが解説されています。

 

ステージマネジメント

上記のような「具体的な技術」の他に、マジシャン特有のモノの考え方も解説されています。

マジシャンはパフォーマンスを計画するとき、「どんなステージか」「観客はどういう人たちか」を考える。マルホランドはこれを応用し、「作戦の目的は何か」「どうしたら人目につかずに実行できるか」を考えるように教えた。(中略)

きちんとステージマネジメントを行えば、観客は自分のあたまではなく目を信じるようになる。人間が宙に浮かぶはずがない、まっぷたつに切られてもいきていられるわけがないと「わかって」いるのだが、きちんと管理されたステージでそういうことが行われると、観客は自分の目を信じてしまう。

CIAはこのような、あくまでも自分を正当化しようとする人の性質を利用し、目撃したものを警戒するにはおよばないと敵側の防諜チームが考えるような作戦を編み出すようになった(P35より引用)。

私たちマジシャンは綿密な計画のもと、観客の意識を誘導し、奇跡を演出します。これも広義でのミスディレクションといえます。私としては具体的な技術というよりも、このマジシャン特有のステージ・マネジメントの内容に共感しました。

スパイ好きのマジシャンとしてはテンションを上げながら読むことができました。中にはハッとするような言葉もありました。

スパイ好きな方は是非。