BLOG, マジックの話
新しいマジックを披露するまで
お客様によく聞かれることがあります。
「マジックって自分で考えるものなのですか?」というもの。
今日はそれについて書いてみようと思います。
これは色んなパターンがあります。
まずイメージしやすいのが、タネを購入するということ。毎日、世界中で新しいマジックが発表されています。もう星の数ほど、これでもかと発表されます。
僕も暇なときに市場を眺めていますが、「これは!」というものがあれば、それを購入したりすることもあります。値段はマチマチです。モノによっては数百万という高額で取引されることもあります。
ただ、場所によっては購入したマジックをそのまま演じるのは権利関係上、トラブルになることもあります。解決済みですが、僕も経験が浅いときにちょっとしたミスがあり、反省しています。
もう一つは既存のマジックをアレンジするパターンです。
音楽の世界にもクラシックと言われる存在があるように、マジックの世界にも古典のマジックがあります。それを自分なりの表現方法に変えたり、組み合わせたりして、既存のマジックをアレンジします。音楽で例えるなら、リミックスですね。
また、全く新しいものを生み出すという形もあります。
ただ、長い歴史を持つマジックの中で、全くのオリジナルを創り出すというのはもの凄く難しいことです。オリジナルだと発信して、どこかにベースとなるアイデアが存在していたりすると、時々揉め事が起こります。
そういう意味では、僕は既存のマジックをアレンジするパターンが多いです。
ちなみに、アイデアはふとした瞬間に降ってきますから、メモ帳は必須アイテムです。
ではどのようにして、新しいマジックを実際の現場に投入するのか。
まず、マジックは往々にしてタネ仕掛けがメインだと思われているのですが、実際はタネを知ったからといってすぐに演じれるようにはなりません。「知っていること」と「できること」の間には壁があります。
中学生にマジックを教える中でも(どういうこと?って思った人はこちら→”学校教育にマジックの授業を”)、最初、彼らはタネを知ったら「できる」と感じて、皆の前で発表します。ところがどっこい、失敗はするし、うまく喋れなかったり、本来の魅力を全く出し切れないのが大半です。
稀に抜群なセンスの持ち主もいるのですが、僕は残念ながらそうではありません…。
単にタネを知っているというのであれば、それこそ数百はくだらないと思いますが、実際にお客様の前で演じるものは相当限られます。それを踏まえて、僕の場合は以下のような手順を踏みます。
①それは本当に自分が演じるべきマジックなのか。
お客様に提供したい世界観や自身のスタイルを客観視した上で、本当にこのマジックは自分が演じるべきものなのかというのを考えます。
アイデアを思いついたときはテンションが上がりますが、この段階でボツになることも多いです。あの人がやったらウケるけど、自分がやってもウケないというのはどの世界にもあります。それは端的に言うと、スタイルに合っていない、もしくはそのレベルに達していないということなのだと思います。
また、たくさんのマジックが存在する中で、これは鉄板にウケるというマジックもあります。
これに関しても、やはり一考する必要があると思っています。
鉄板のマジックは素晴らしい効果を生むのですが、逆に言うと多くのマジシャンが披露しているマジックということになるので、差をつけにくいという話にもなります。それも踏まえて、演じるのか、演じないのかを決めます。
何を演じるかという選択眼は、マジシャンにとって大切な感性だと思っています。
②練習、練習、練習…
晴れてそのマジックを演じようという話になったら、技術面を空で演じれるようになるまで練習します。もうこれはとんでもなく地味な工程です。その姿は健全な人間に見えないかもしれません。
③台本の作成
ある程度、そのマジックが身体に馴染んだら、次は台本を作ります。
この作業によってマジックに命が吹き込まれるというと大げさですが、それくらい大切にしている工程です。ペンとノートで書きなぐっていきます。喋りのプロである漫才師でも台本を書くのですから、マジシャンにとっても台本製作は必要な工程だと思っています。
僕が尊敬しているあるマジシャンが、インタビューでこんなことを言っていました。
「最も優れた即興マジックはどんなものですか?」
「最も優れた即興マジックは、念密に準備されたマジックだ」
言葉遊びのように聞こえますが、これは唸らせられました。
”パッと披露してみせたマジックでも、裏にも念密な準備が施されている。それが即興に見えなければいけない。”
そんな風にフリガナをふって解釈しています。
④リハーサル
セリフも含めて、リハーサルを行います。
上手くいかないところは台本に手直しを加えます。
⑤本番と反省
準備したマジックを披露して、お客様の反応を見ます。
必ず改善点や反省点が見つかるのでそれを台本に書き加えます。
これの繰り返しです。
さて、いかがでしたでしょうか。
こう見ると、実際にマジックを演じている時間より準備の方が圧倒的に長いです。
マジックを数年演じているうちに実感したことは、準備が全てを決めるということです。
どの世界でも当たり前のことなのですが、本番後にモヤモヤが残っている場合、ほぼ準備不足が原因です。
もう少し言うと「準備はこれで十分だ」と思う基準が低いことが不完全燃焼に繋がります。
ぶっつけ本番でできるほどのセンスがあれば別ですが、僕はそうじゃないと思ってるので、この辺りは徹底するようにしています。まだまだ理想とは程遠いものがあります。精進です。
もちろん、これは僕の考え方ですので、どうかご参考までに。
中経出版
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