マジックの話, 思うこと
夜の女性の「嘘」は、手品に似ている
マジシャンとして活動して間もない頃、私は大阪北新地のクラブでマジックを披露していました。[参照:私がマジシャンと名乗った日]
そこでは、お客様のお酒をついだり、お話のお相手をする、女性のキャストも働いてました。
同じ場所で働いているのだから、彼女たちと話すこともありました。大学生だったり、昼間は別のお仕事をしている、いたって普通の、少しオメカシをした女性たちでした。
気がきくし、お話も上手。ほとんどの方はお付き合いをしている特別な男性がいました。
お店が暇なときは、恋話で華を咲かせいます。
でも彼女たちは、お客様から「彼氏はいるの?」と聞かれると、決まって「いない」と答えます。
「そんなに綺麗なのに彼氏がいないなんて、見る目がないね!」
「またまた!じゃあ、今度良い人つれてきてくださいよ!」
「ええ、俺じゃダメなの!」
なんて様子です。
表情ひとつ変えずに、お客様との時間を楽しんでいます。
いじられ方もその返しも、心得ています。
マジシャンが言うのもあれですが、完璧でした。
ある時、お店のママに聞いたことがあります。
「なるほど、”特別な人がいる”とは言わないのですね。」
「ええ、あなたの手品と同じ。」
誤解を恐れずにいうと、我々マジシャンは虚構の世界をつくります。
「ああ、もしかしたら、魔法はあるのかもしれない」と思わせるような。
大げさにいうと、そんな夢をみせるお仕事です。
彼女たちも同じだと言いました。
「マジシャンは魔法使いを演じる役者である」という有名な言葉があります。
私がマジシャンを演じているように、彼女たちは夢をみせる女性を演じている。
徹底した綺麗な「嘘」で守られた、魔法の国のようでした。
この魔法の国では、彼女たちは名前も違う。
まさに別の世界の住人として生きていました。
私生活や仕事についても、ほとんど全て、嘘でした。
どことなく、少し、弱い女性を演じているようでした。
でも、お店の外では、それぞれの夢に向かって、皆、強く生きています。
それは男性が、引け目を感じないための配慮に思われました。
お客様とのやりとりは基本は禁止されていて、SNSの交換もNGでした。
プライバシーへの配慮でもありますが、夢を壊さないための仕組みでした。
そして、お客様もなんとなく、それを理解しているように思えました。
手品が「タネと仕掛け」があることを前提としたエンターテイメントのように。
私はそんな光景をみて「くだらない」なんて思いませんでした。
むしろ、マジシャンとして徹底して「嘘」をつかなければならないと思いました。
こんな世界だからこそ、夢を見せるモノが必要なのです。よく考えると、テーマパークやゲーム、映画、小説だって同じです。
たとえ、それが嘘だったとしても、ある人にとっては明日への希望になります。
今夜も誰かがどこかで夢を見せ、魅せられているのでしょう。